022048 ランダム
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大佐の異常な日常

大佐の異常な日常

無題 2

 「じゃあ、さっそく契約しようか?」

 シャムは笑顔のままそう言うと自分の白いスーツに、正確にはシャム自身の中に手を入れた。

 「にゅ・・・・・・」

 少し苦しそうに顔をしかめつつ体の中から取り出したものは白く発光するテニスボールほどの球体だった。

 「うん、これを」

 と言いながらその球体を麻義の額に押し込もうとした。麻義は驚いて叫んだ。

 「ちょ、いきなり何するんですか?」

 温厚そうな顔が引きつっている麻義に対し、シャムは笑顔で言った。

 「何って・・・契約だよ?」

 「いや、貴方の持っているそのボールみたいなのは何ですか?説明もせずに契約とか言われても怖いだけなんですが」

 「コレ?コレは僕の魂っていうか・・・僕を構成している核みたいなものかな?コレ自体が僕の命みたいなものだね?」

 「貴方はそんな大切なものを取り出して何しようとしてるんですか?」

 「だから契約・・・ぁーまだ契約については説明してなかったっけ?」

 シャムは自分の『命』をお手玉のように弄びながら説明を始めた。

 「契約はね?お互いの命、魂を交換し合って共有する事なんだよ?」

 「魂を共有?って事は」

 「うん?片方が魂ごと消されるようなことがあれば、契約を交わしたもう片方も消えちゃうんだよ?」

 「・・・・・・」

 「生半可な覚悟じゃダメだね?というかどっちか片方が相手を拒む気持ちがあると契約は不可能なんだけどね?」

 そう言うとシャムは『命』で遊ぶ手を止め、少し悲しそうな顔になった。

 「アサギは今の話を聞いてやっぱり気が変わっちゃう?そうだよね?普通のヒトならわざわざそんな危険な事するわけないからね?」

 シャムは自虐的にそう言うと更に悲しそうな顔になった。

 麻義はそんなシャムを見てずきりと胸が痛んだ。

 (なんだろ?こんな表情前にも見た気が・・・・・)

 そう思った直後、麻義の脳裏に曖昧な映像が流れる。



『・・・・・・・・ひくっ・・・・・・』

子供が泣いている。

夕日に赤く染められた公園。砂場の近くで小さな女の子が座り込んで泣いてい
た。

『・・・・・・なさい・・・・ご・・・・・うっ・・・・・』

泣きながら何かをしきりに謝り続けているようだった。

傍に同年代に見える男の子が立って、静かに少女を見下ろしている。



 「・・・・・・アサギ?」

 シャムは黙ったまま停止している麻義に何か感じたのか、心配そうに声をかけてきた。

 その声で、麻義の脳内で流れていた映像が切断される。

 そしてどこか不安げな顔のシャムに気づき返事をする。

 「あ、はい、大丈夫ですよ。聞いています」

 麻義は、なんでもないことのように言った。

 「なります。死神に」

 「え?」

 シャムは不意を突かれたかのように驚いていた。

 「だって、自分の魂だよ?消されちゃったら、もう転生も出来なくなるんだよ?」

 「・・・・・・僕はですね。自分はこういう人生を歩んできたんだなと自分でわからないなら、生きてきた意味がないんじゃないかと思うんですよね」

 シャムは麻義の言葉を聞いて、唖然としている。

 「だから記憶が消えたら、自分がしてきたことが全て無意味なものになってしまうんじゃないかって思うんですよね。」

 「・・・・・・なるほど」

 シャムは何かを納得したようにしきりに頷いている。

 「そっか、そういう考え方もあるんだよね?うん?そうか?」

 「どうしたんです?」

 「やっぱりアサギは他のヒトとは違うね?死の本質をわかってるみたいだね?ボクの見込みは間違ってなかったね?」

 シャムはいつの間にか嬉しそうな笑顔に戻っていた。

 「じゃあ、もう大丈夫ですから。契約しましょう」

 「うん?そうだね?」

 シャムは手に持ったままだった球体を麻義の額に押し込む。とぷん、と球体が波紋状になりゆっくりと消えていく様子は、まるで麻義の体に溶け込んでいくようだった。

 「これでボクの分は終了だよ?あとは・・・・・・」

 シャムは麻義の腹部に手を当てた。テニスボールほどの発光する球体が取り出され、麻義に手渡される。

 「じゃ、それをボクに入れて?ゆっくり押し込むようにすれば入るから?」

 「はぁ。わかりました」

 麻義は自分がそうされたように、麻義の『命』をシャムの額に押し込んだ。
 やはりゆっくり溶け込むように波紋状に広がった。
 やがて球体は完全にシャムの中へと消えた。
 すると、麻義は自分の中に異物感が現れた。

 「?」

 麻義がこの異物感に首をかしげていると、シャムはそんな麻義の心を読んだかのように言った。

 「今、アサギの中に何か感じてるでしょ?」

 「ええ。なんです?これは」

 「それはボクだよ?命を交換したから、アサギの中にボクが居るんだ?同じように、ボクの中にもアサギがいるよ?」

 「はぁ・・・・・・」

 「だから、たとえばアサギが嬉しくなったとするでしょ?そうすると、それがボクの中のアサギにも伝わって、そこからボクにも伝わるんだよ?ただ、完璧にってわけじゃないから、曖昧になっちゃうけどね?」

 「つまり、僕の気分が貴方にも伝わるって事ですか?」

 「そういうことだよ?」

 麻義は自分の中にある異物感が不快ではないと気づいた。
とても暖かく、純粋なシャムの心をとても身近に感じられることに嬉しさがこみ上げてくるほどだった。

 「とにかくね?」

 麻義の中のシャムは、とても嬉しそうで、麻義の前に居るシャムもとても嬉しそうに見えた。

 「これでアサギは死神だよ?ボクと一緒にセカイの歪みを修正する、死神になったんだよ?」

 ここまで嬉しそうな顔をされるとこっちまで嬉しくなる。麻義はそう思っていた。だから、麻義は心から嬉しい気持ちで一杯にしてくれたシャムに敬意を払う。
 そういう意味も込めて、麻義はその気持ちを込めて、シャムに負けないくらいの笑顔で言った。

 「はい、これからよろしくお願いしますね?シャムさん」

 「んー?初めて名前で呼んでくれたね?でもさんはいらないよ?」

 「はは、そうですか。じゃシャム。改めて宜しくお願いしますね?」

 「こっちこそ、これからよろしくね?アサギ?」

 二人はしばらくの間、笑顔でそう言い合っていた。


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